
Hiromi Kawano 川野宏美
川野宏美は、写真を撮り多重露光作品を制作することで救われてきた。
多重露光という表現手法に出会ったのは2015年。写真をオーバーラップさせることで現れる予想外の世界に夢中になった。好奇心から始まった制作は、やがて不安や悲しみから心を守り支える存在になっていく。
両親の他界や自身の病気など人生の大きな変化の中で、「この写真が撮れたから、この作品ができたら、明日も大丈夫」だと信じた。
2023年1月、能登半島地震の映像を見た彼女は、言いようのない不安の中で一対の作品を制作する。1点目には力強いダリアを、2点目には白鷺を配置したとき「私も家族も世の中も大丈夫」と感じた。後に気づく。無意識に選んだダリアは母で白鷺は父。
これからも彼女は写真を撮り作品を制作し続けていく。それは日々の平穏を願う祈りに似ている。
主な展示にFOCUS Art Fair Paris 2022、Artexpo New York 2024がある。
PROFILE
バイオグラフィー
1964年 埼玉県に生まれる。
1986年 跡見学園女子大学 文学部国文学科を卒業。
1994年 独学でデジタルデザインを学び始める1998年 フリーランスライター・イラストレーターの活動を開始。
2015年 デジタル多重露光作品の制作を開始。
2017年 個展を機にアーチストとしての活動を開始。
2022年 フォーカスアートパリ 2022年に出品。
2023年 東京タワーアートフェア(世界) Wide Art)に出品、Red Dot Miami (World Wide Art)に出品、JCAT NY ニューヨークでのグループ展に出品。
2024年 Artexpo New York 2024(World Wide Art)に出品、ニューヨークでのグループ展に出品(JCAT NY)。
2025年 Artexpo New York 2025(World Wide Art)に出品。
作品制作のポイント
1つめのポイントは写真撮影で、私自身が心惹かれたシーンを撮影することから始まります。旅先などで撮影することもありますが、その多くは日常生活で目に入る自然や建物であり、季節や季節、時間帯などで変化していく一瞬のシーンを逃さないようにアンテナを張っています。
2つ目のポイントは写真の選択です。すぐに決まる場合もあれば、1年越し、2年越し とりあえず組み合わせが決まった場合もあり、iPhoneやパソコンのアプリを使って、筆や絵の道具を選ぶように写真のモードや数値をコントロールして作品に仕上げていきます。
3つ目のポイントは、展示用に仕上げる際のプリント用紙や加工方法です。デジタル上の色は100%再現できないので、色の調整もしています。現在は、透明アクリルを作品に圧着させるフォトアクリルでの仕上げ(写真工房に依頼)が多いですが、今後はもっと様々な方法を試したいと思っています。

推薦コメント
川野裕美さんの作品には、何気ない日常の風景が、まるで夢の中のように新たな姿で現れます。
企画テーマ あなたにとって「帰る場所」とは
二つの帰る場所
私が帰る場所は30年近く住んでいるマンションです。 夫と2人で決めて購入し娘たちを育て、パソコンを手にしてインターネットで広い世界と繋がった我が家です。 安心できるこの場所を拠点に仕事や作品作りをしています。
そして、もう、一つ時折思い出「心の我が家」があります。 私が育った26歳まで住んでいた実家です。 敷地を囲むお茶の木、柿や栗の木、バラやツツジなど季節の花々などが豊富で、緑に守られていたと言いきそうな家です。祖母、本とカメラが好きな父、和裁と編み物を教える教室を開いていた母から、多くの影響を受けて育ちました。苦い思い出もありますが、今は心の中だけになったこの場所を、もう一つの帰る場所として大切にしていきたいと思っています。